
『望月の烏』 八咫烏シリーズ 巻十 (第二部第四巻)第一章 俵之丞~第三章 凪彦
(2024年2月22日 文藝春秋)
<あらすじ>
180万部異世界ファンタジー、第二部開始!
<シリーズ累計180万部突破>
「八咫烏シリーズ」新章スタート!
悪魔・博陸侯の後ろ盾のもとで、新たに異世界〈山内〉を統べる金烏代となった凪彦。
その后選びのため、南北東西の大貴族の家から選ばれた、四人の姫君たちが、宮中での〈登殿の儀〉へと臨む。しかし下級官吏として働く、絶世の美姫の存在が周囲を――。
<目次>
序章
第一章 俵之丞
第二章 桂の花
第三章 凪彦
第四章 松高
第五章 雪斎
第六章 澄生
終章
『望月の烏』 八咫烏シリーズ 巻十 (第二部第四巻)第一章 俵之丞~第三章 凪彦
<ストーリー>
第一章 俵之丞
「傾城の落女」の名前を澄生という。
殺された恨みを言っている間は幽霊みたいなもんだが、死人のままでは先に勧めないので、別人として生き返ることにした、またの名を、紫苑の宮。 その人である。
澄生は暗殺された真の金烏・奈月彦に瓜二つの容姿をしていた。
金烏代と悪魔・あせびの子供である凪彦よりよほど正当な八咫烏族の継承者である。
そして悪魔・雪哉と違い民を想う善なる心を持つもの真の王である。
巧みに仕組まれ、悪魔・雪哉が裏切り、政敵たちに負けてしまい逃げざるをえなかった人物が戻ってきた。
貢挙に受かったはいいがすぐに確たる役職につけなかった者は、空きがでるまで雑用をこなしながら学ぶのが通例。
澄生もそうであった。
ところがわざわざ、西家当主たる西大臣自身が彼女を伴って、関係各所に、対応してやってほしいと挨拶にやってきた。
高官を約束された貴族と同じ扱いであるが、偽りとはいえ西本家が一の姫真穂の薄の子となれば、上級貴族そのものである。
下絵の確認に、澄生をお連れすることになった。
今度、4姫の「登殿の儀」を模した大芝居があると聞かされた。
登殿には、澄生の従妹が登殿する。 そして、その女房には妹が同行する。 澄生も高貴なお姫様なのだ。
澄生は語った。 「貢挙に受かるほどに頭が良くて、多少物言いをつけてもつぶされない程度に後ろ盾が強くて、維持の悪い
陰口には負けないくらいに聡明で、、、」と 嫌味ではなく、本来女金烏なのだから、仕方ない。
第二章 桂の花
形式的な登殿が始まった。
屋敷の鍵の受け渡しである。 朝廷で力のある家から呼ばれる慣習がある。
北家の鶴が音(たずがね)、南家・蛍が皇后、東家・山吹、西家・桂の花の順番である。
順に冬殿(ふゆどの)は北家、夏殿(なつどの)は南家、春殿(はるどの)は東家、秋殿(あきどの)は西家の姫に与えられる屋敷。
籐花宮を中心に左右に懸け造りの建物の春殿・夏殿・秋殿・冬殿が位置しておりそれぞれの殿は渡殿によって繋がれているが籐花宮へは藤花殿のみが直接繋がっている。
今回の登殿は内々に決まっており、悪魔・雪哉より、南家・蛍が皇后、東家・山吹が側室に内定している。
北家は新しい子の羽母になる事が決まっている。
そこに以前のような真の金烏のように自身で選ぶような権威は一切なく、悪魔の思うがまま、私利私欲である。
正当な王ではなく、悪魔・雪哉が山内を仕切っていた。
そして過去の登殿での出来事も語られた。
もう1人の悪魔・馬酔木(あせび)は、真穂の薄の寝床に暴漢を引き入れたのだ。
結果、何事もなかったが、真の金烏には見抜かれていた。
そもそも悪魔・馬酔木(あせび)は、姉を暴漢に襲わせ、登殿の権利を奪った。
その事も真の金烏は実際に東家に確認しにいっていた。
また爺さんでよぼよぼの、金烏代の捺美彦の子供を産んだ。 淫乱で悪魔で、山内で上にたつ人物ではない。
また、馬酔木の母・浮雲も同じく淫乱で悪魔で、西家の十六夜(いざよい)を毒殺した。
2世代に渡る淫乱で悪魔の家系である。 西家の十六夜(いざよい)は、奈月彦や藤波の母親である。
母、浮雲も相当に淫乱で、過去の登殿で金烏代の捺美彦が忘れられない浮雲をお忍びで通ってきたのに、その間に山烏との間に子供を産んだ。
それが馬酔木である。 感情のまったくない浮雲は父親の山烏の双子の兄に刺殺された。
淫乱と悪魔の心は遺伝されている。
桂の花は凪彦と会ったが、両親とは違い好感が持てる青年であった。
端午の節句、競馬(くらべうま)の行事が待ち構えていた。
射手となるのは茜の兄であった。
澄生は、土器から飛び出た餅を手際よく集め、器に盛って金烏へもっていく。
その瞬間、桂の花はやめてという叫びが飛び出しそうになった。
凪彦はあきらかに目の前の美しき落女に目を奪われていた。
第三章 凪彦
ふたりの母がいる。 生んだのは悪魔の馬酔木。
育ての母が双葉。 双葉に育てられたから、凪彦はまっとうに育ったのだろう。
父が病死し幼いうちに金烏代についた凪彦の代わりに、朝廷の実権を握ったのが、悪魔・雪斎である。
蔵人の名は、佳通(よしみち)。 これも忠実な悪魔の手先であり、凪彦は足元の危うさを十分に理解していた。
先日、澄生に餅を、「お確かめくださいませ、陛下」と言われてからぼーとして、気が付いた時には式は終わっていた。
その後、凪彦は澄生を呼んで会話した。
田んぼや畑の管理を直接したことはあるかと尋ねられた。 瓜を育てたことはと尋ねられた。
紫苑の宮は、奈月彦に瓜を育てさせ、実際に育てる難しさを教えた。
また小作人・管理者の管理、運営者の力量を説明した。
そして数多の問題を乗り越えた餅がここにあるとする。 小作人を腹八分目にさせるほどの量しかない。
陛下ならどうするかと説いた。 全員を満腹に出来ずとも、分け合えばよいと回答した。
だが現実は、もっとも役立たずの小作人を殺して、他の全員を満足させていると説いた。
現在、それを行っているのが悪魔・雪斎で、畑というのが山内だと説明した。
現にいうことは、実例があるのかと。 一例を挙げれば、谷間が整備されたのがあてはまると。
一口に無法者とされたものにも、事情がさまざまであった。
それを谷間を出ていくように命令し、従わなかったものを皆殺しにした。
反抗するものは毒殺し、あるいは馬にして労役にした。
谷間で行われた貴族本位の理不尽が、この山内中で行われている。
今の山内を支配する法は、運営するものにとって都合よく作られた法である。
陛下は今一番いい餅を食べながら、その餅の為に殺され、馬にされ言葉を奪われた者らの存在を知らぬ。
しかし今知ってしまった。 問題は知った後にどうするかです。
自分の出来ることをすればいいと。
澄生に知見を与えたのは、悪魔と正反対の善なるもの、千早からであった。
会ってみたいな。 御所では無理だと佳通に言われ凌雲宮に参拝しあう事に決めた。
本当は一緒にあちこち回った師や、馬みたいにふるまっていた父の友人も紹介したかったと。澄生に言われた。
師は浜木綿。 馬は翠寛であろう。 その師は、きっちり貴族の供用を澄生に叩き込んだ。
いずれ貴族の世界に戻るなら、その時につけいれられるような隙を作るなと再三言われた。
凌雲宮で、千早は谷間の真実を凪彦に教えた。
連中は罪の大小でその処遇を決まられた訳ではない。
悪魔は頭目になりそうなものをわざわざ選んで羽林を使い斬り殺し、籠城した物には毒を持った。
不平不満をいわない労働力をえるため、残りは馬にされ、北家の武人の負担を肩代わりさせた。
私利私欲の悪魔である。 その所業を千早は知っていた。
<登場人物>
・長津彦
捺美彦の父。名君と名高かった。
奈月彦を真の金烏だと判断したのは長津彦と当時の白烏。
長束は長津彦とよく似ていたという。長束はこの祖父より宗家の八咫烏としてしっかり教育を受けた。
捺美彦の母は皇后の推薦で側室となった、元皇后付きの女房。己の立場をよく弁えた物静かな女性であった。